「どんなに努力しても職場に馴染めない・・・」
それは、もしかすると「ASD(自閉症スペクトラム)」が原因かもしれません。
数年前から注目されている「大人の発達障害」。学生の頃「じっとしていられない」「人と変わってる」と言われながらも、大きな挫折もなく就職。しかし、社会人生活が始まると『職場で浮いた存在』になってしまうのが「大人の発達障害」の特徴です。
ただ、自分の苦手分野を知り、周りの理解を得れば職場で活躍することも可能です。人によっては『会社の中心』として働いている方もいます。
これから紹介する『ASD』の知識をチェックして、あなたが「大人の発達障害」であるかどうかの判断基準に役立てください。
ASD(自閉症スペクトラム)の基本知識

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もともとは「自閉症」「アスペルガー症候群」などカテゴリー分けされていた先天性精神疾患が、2013年からASD(自閉症スペクトラム)とまとめられました。
そのため、人によって特徴や程度の強さが違うため「100人いれば100通りのタイプ」があり、全く同じ症状の方はいないと言われています。男女比は4:1で男性が多いが、女性のASDの方はより重い症状になり「ストレス耐性が低い」場合が多いことも分かっています。
また、学校の勉強は普通に出来る方が多く、IQ120を超えている場合も珍しくありません。しかし、就職して「複数の業務を並行して行う」「即決断を求められるコミュニケーション」のような、学生時代は避けられたが、社会人では避けられない場面で「苦手意識」を感じることに。このことから「大人の発達障害」と呼ばれています。
現時点では、ASDに効果的な治療薬は見つかってません。自分の症状を理解して、苦手なことを周りに知ってもらうことが『職場に馴染む』ために必要といえます。
ASDの方の特徴は大きく3つに分けられています。
- 社会性の障害
- コミュニケーションの障害
- 想像力の障害
これらのことを、職場に当てはめて次に紹介していきます。
ASDの3つの特徴と対処法

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集団での行動が苦手
ASDの方は黙々と一人で作業をするのが好きな傾向があります。そのため職場で複数の人と関わりながら業務を進めることに苦痛を感じることが多いです。
空気を読むのが苦手なため、
「あの資料、時間あるときにまとめてください。」
のような、曖昧な指示を理解するのが難しいです。そのため、頼まれた仕事の進捗を聞かれて「まだ手を付けてない」「頼まれていたのを忘れていた」という事態になりがちです。
また、チームで目標達成するための道筋を理解できなかったり、自分がどう動けばいいかを想像することできない方も多いです。そもそも職場の人達に興味が持てないこともあり、周りから「浮いた存在」なるのです。
周りと上手くかみ合わない
表情から『相手の意図』が読み取れないため、言葉通りに受け取ってしまうのも特徴の一つです。そのため、冗談だと分からずに怒ったり、相手のウソにまんまと騙されたりしてしまいます。
頼まれた内容を「自分の解釈」に置き換えてしまうことがあり、相手が望んだものと違うものが出来あがり、やり直しすることもしばしばです。
また自分も笑顔を見せるなど同調の気持ちを態度で表すことが苦手で「何を考えているか分からない人」と思われることが多々あります。
ほかにも、「伝えたいことをまとめるのが苦手」なため、「話が長い」「何を言いたいのか分からない」と言われることが多いことも特徴です。
自分のこだわりが強い
こだわりが強く「自分が納得した方法」で仕事を進めるのもASDの方の特徴です。仕事の順番や方法が変わることに抵抗があります。
こだわりに関しては、子供時代に強く、大人になるにつれて弱くなっていくことが多いと言われています。そのため、ある程度職場のルールに沿った行動がとれます。
しかし、『予定外の仕事の追加』『期限の短縮』に上手く対応できずに「ストレス」を抱えてしまうことも多いです。
違う方法で仕事を進めるようにアドバイスされても、いつの間にか今までやっていた方法に戻っていることも。その理由は、自分の知らない方法で「どんな結果に結びつくか理解できない」ことが大きいです。
ASDの方の職場での対処法
ASDと診断された方が、効果があったと感じた対処法は以下の通りです。
- 得意・不得意を上司に伝える
(明確な指示があると行動しやすいなど) - 指示されたことをメモして、相手にメモを確認してもらう
- 紙面だと理解できないため、タブレットを利用する
- スマホのリマインダー機能でスケジュール管理する
- 報告する前に箇条書きでまとめ、箇条書きを相手と一緒に確認しながら報告する
- 周りの音が気になる場合はイヤーマフの使用許可をもらう
ASDの方は周りの理解を得られると、グッと仕事が進めやすくなります。
「何のために」「どのような結果になる」を想像するのが苦手ですが、しっかり指示してもらえば『持ち前の集中力』で仕事に取り組むことが出来ます。
ただ、口頭だけで説明されても理解が難しい方もいるので、書面やメールなど自分が理解しやすい方法で伝えてもらうことも必要です。「相談する相手を1人に決めることで仕事が進めやすくなった」という声も少なくありません。
また、『ASDだからサポートしてもらって当たり前』という気持ちは周りに伝わるものです。感謝・謙遜の気持ちを忘れないことがサポートを得るための第一条件といえるでしょう。
ASDの方が得意な仕事・不得意な仕事

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ASDの方が得意な仕事
ASDの方の特徴から得意な仕事は
- 集中してコツコツ出来る
- 規則性が高く、イレギュラーが少ない
- 人間関係が複雑ではない
- 目で見れるマニュアルがある
- 専門分野の知識が生かせる
これらの条件がそろっている職場では能力が発揮しやすいです。比較的大きな会社で、社員教育制度が整っている職場がASDの方に合ってるといえるかもしれません。
ASDの方が得意な業種は
- 経理・事務・法務
- コールセンター(クレーム対応除く)
- プログラマー
- テスター
- テクニカルサポート
- 研究職
- CADオペレーター
- 工業デザイナー
- 設計士
などに適正がある事が多いです。
ただ、本人が興味を持っている分野の職種であれば『問題なく能力を発揮』していることもありますので、チャレンジする気持ちを捨てる必要はありません。
ASDの方が不得意な仕事
ASDの方の特徴から苦手な仕事は
- 複数の業務を並行して行う
- 場を読んだ対応が必要
- 先を予測した行動が必要
- 相手の心理を読んだ提案が必要
- 人間関係が複雑
これらの条件がそろっている職場は、パニックに陥りやすく「ストレス」を抱えることが多いでしょう。よっぽど自分が興味を持てない限り、健康に仕事を続けるのが難しい職場といえます。
ASDの方が苦手な業種は
- 飲食などの接客業
- レジ係やサービスカウンター業務
- 営業職
- クレーム対応業務
などは長く働くことが難しいでしょう。
ASDの方が合わない仕事を続けていると、「適応障害」を併発させることもあります。次に適応障害の症状と対処法を紹介していきます。
苦痛が長く続けば『適応障害』になることも

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現代のストレス社会が生み出した傷害の代表として『適応障害』が挙げられます。
うつ病と症状が似ていることから、自分で「うつ病かも?」と感じている方の中には『適応障害』の方が多くいます。
ASDの方の二次障害として挙げられる『適応障害』は、自己防衛のために知っておく必要があります。
『適応障害』と『うつ病』の違い
『うつ病』と大きく違うのは
うれしいことや好きなことがあると、元気や明るさを取り戻すことが出来る。
という点です。このような状態を「気分反応性がある」と言います。うつ病であれば、落ち込んだ状態が1週間以上続き「気分が上がった状態」になれないという症状があらわれます。
ただ、良いことがあった時と悪いことがあった時の「落差が激しい状態」になり「慢性化」すると、『非定型うつ・新型うつ』と言われることもあります。しかし、『非定型うつ・新型うつ』は『適応障害』が慢性化されている方を指す場合が多く、『うつ病』とは別物考えるの普通です。
『適応障害』と診断された方のうち40%が「5年以内にうつ病などの精神疾患に診断名を変更」される油断できない症状だと覚えておく必要があります。
『適応障害』の症状と原因
適応障害の症状は大きく分けて3つ
- 精神症状
・強い憂鬱感
・絶望感
・思考力、集中力、判断力の低下
・感情のコントロールが難しいときがある
・漠然とした不安感に襲われる - 身体症状
・肩こり、頭痛
・疲労感が抜けない
・眠れない
・激しい動悸や発汗
・めまい - 年齢や社会的に不相応な行動
・万引き
・危険運転
・暴飲暴食
・攻撃的な言動
・無断欠席
これらの症状は「原因になる出来事から1か月以内」に症状があらわれることが多いです。ただ、もともとの適応力が高い方は「かなり遅れて」発症することも確認されています。
適応障害の原因に挙げられるもの
- 職場での孤立
- パワハラ
- セクハラ
- 近しい人との死別
- 結婚
- 妊娠、出産
- 病気
- 禁酒、禁煙
- 引っ越し
『うつ病』は1つの出来事だけが原因で発病するものではありません。しかし「適応障害」は上記の1つが原因で発症することが分かっています。
『うつ病』と似ていると言われていますが、『適応障害』の特徴は
『適応障害』になった原因の解決後「6か月以内に回復」する
ことです。
つぎに『適応障害の克服』について説明していきます。
『適応障害』を克服する2つの対処方法

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引っ越しや結婚など、慣れれば問題がなくなる場合は時間が解決してくれることもあります。
しかし職場が原因の場合は『適応障害』を克服するために、「ストレス」を感じる環境を「変える」「離れる」または「自分を変える」ことが必要です。
問題解決に取り組む
「適応障害」になる方は以下の性格を持っていることが多いです。
- 感情の起伏が激しい
- 些細なことを気にしすぎる
- 完璧主義
- 承認欲求が強い
- 頼みごとを断れない
- 真面目で頑固
こういった方は「適応障害」になりやすいと言えます。適応障害の方は惨めさから「周りの人に相談できない」ことが多いです。しかし、自分だけで病気を背負って潰れてしまうほうが恥ずかしく、周りに迷惑をかけることになります。『相談できる人』を探すことが先決です。
また、ストレス耐性を高めることで『適応障害』を克服している方も多くいます。考え方としては
- 自分・周りへの期待値を下げる
→50点の言動で満足する - 周りのプラスにならない言葉を気にしない
→中傷は存在感の裏返しととらえる - 悪いことを考えるクセをやめる
→意識を切り替える方法をみつける
などがあります。特に、悪いことを次々と考えてしまう「反芻思考」が病気を悪化させる大きな要因と言われています。
悪いこと考えている時に意識を切り替える方法としては
- 身体を動かす
- 場所を移動してみる
- 今考えてプラスになるか?と考えるようにする
などがあります。自分で雑念を吹き飛ばすルーティンをつくるのも有効です。例えば、目を閉じて息を吸いながら「吸い込んだ空気で脳の雑念を飛ばす」ことをイメージします。そして息を吐きだすときに「頭にこびりついている雑念を鼻から吐き出す」ことをイメージするなどです。
ストレス耐性を高めることで、「症状が良くなる」「別の職場に移動しても問題なく過ごせる」という、大きなメリットを得ることが出来ますよ。
ツラい環境から離れる
「どうしても我慢できない」そんな場合もあると思います。そんな時は職場から離れる必要があります。無理して『うつ病』になっても会社は責任取ってくれませんから。
ただ、問題になっているのが「見切りが速いケース」が目立つことです。努力の気配なく、すぐ辞めてしまうことが増えています。
その結果「困難や試練を乗り越える粘りや抵抗力がつかない」という欠点が明らかになっています。そして、短期間で転職を繰り返したり、ニートになってしまうパターンが目立ち、国・病院が危惧しています。
ストレス耐性を高めようと試したが悪化しそうな方は、こちらの「【孤立職場からの転職方法】理想の転職に必要な今すぐやる3つのこと」に転職の心得など、必要なことがまとめてますので参考にしてください。
まとめ
「もしかしたらASDかもしれない。」と感じたら、精神科や心療内科がある病院で検査してみることをおススメします。自己診断で「悪いイメージを膨らませる」ほうがよっぽど精神に良くありません。
イギリスの女性シンガー「スーザン・ボイル」をはじめ、ASDと診断されて「ホッとした」と感じた方や、「精神的な疲労感が和らいだ」と感じる方が多数います。
専門医と、自分が「得意なこと」「苦手なこと」をすり合わせることで、職場での協力者へのお願いも精度が増すことにもなります。
自分を認識することで、上司に協力してもらい「適所」に配置してもらえたり、あなたに合った転職先を探せるなど可能性が広がりますよ。